事務所に戻ると、社長はもうボロボロと涙をこぼして泣いています。
「今まで頑張って準備してきたのにね・・・」
社長は来日に係るスケジュールやスポンサー絡みの案件の打ち合わせを、僕はミュージシャンや会場のステージ担当者との打ち合わせを手分けして行ない、色々な準備がいよいよ形になってきた頃でした。
なのにSTAMPのビザが間に合わないなんて!
元はといえば、僕達とフェス実行委員との間で、「ビザ申請に必要な書類に関してはどちらが準備するか」そして「どちらがビザを申請するか」、この事についての意思疎通が不十分だったのが原因でした。こんな肝心な事を疎かにして、脳天気に来日後の打ち合わせばかり進めていたなんて!
既にチラシも出来上がっています。
もう告知も始まっているのに、STAMPが出演できない事態になったら・・・。
僕自身どんどん恐ろしい方向へ考えが向かうのを感じながらも、社長をハグして
「まだあきらめちゃダメだ。何か出来る事があるはずだよ。」
と励ましました。可能性を探るしかないのですから。
しかし全くの素人で未経験の僕達がいちからビザの申請をする場合、2~3ヶ月は覚悟しなければならない事がすぐに判明します。タイフェスまでもう1ヶ月とちょっとしかないのです。
世間はゴールデンウィークを迎えて楽しそうですが、僕達はどん底です。でもこの危機的現状はバンドメンバーに伝えなければ。バックバンドP.O.Pのさいとうさんに正直に報告すると、「ともかく、知り合いに相談してみましょう」と言ってくれました。
そして唯一の可能性が。海外のバンドの招聘経験が豊富なライブハウスと僕達STUDIO MUSHROOM IRONが業務提携する形を取って、ビザ申請を代行してもらう作戦です。もちろん費用はかかりますが、僕達は既に腹をくくっていました。
新たに業務提携のための契約書類を。そしてビザ申請に必要な大量の書類をフェス実行委員をすっ飛ばして直接主催者から送ってもらい申請準備。ゴールデンウィークの真ん中にポッカリ空いた平日の朝一番に入国管理局提出が間に合いました。
審査が通れば、ビザ申請書をタイに国際宅急便で送り、タイの日本大使館でビザを発給してもらう。という流れですが、審査と発給に係る日程を考えると、間に合うかどうかは賭けです。
もう僕達にできるのは祈る事だけです。南西を向いて、きっとこの方角がエラワンの祠だと信じて祈りました。
エラワンの神様にはいつも願いを叶えてもらっている、という話をこのブログでも書きましたが、今回も、でした。タイと仕事で繋がりがある日本企業の方から、東京のタイ大使館の担当者(すごく偉い人)を紹介されたのです。
丁度代々木公園で毎年恒例のタイフェスティバル東京が開催されています。僕達は資料を携えて東京へ向かい、フェス会場内のタイ大使館ブースを訪ねて陳情しました。
「私もSTAMPのファンですよ。彼ほどの有名人なら心配ないでしょうが、もし何か問題が起きたら知らせてください。私からタイの日本大使館へ連絡しましょう」
後は審査が一日も早く終わるのをフェスでも見ながら(笑)待つしかありません。この日の東京会場のゲストは例年以上にバラエティに富んだ人選で、カラバオのメンバーでもあった人間国宝の縦笛奏者タニット氏や大手レーベルGMMの大物歌手達、そしてBNK48(この頃は日本での知名度はまだまだでした)と、来場者誰もが楽しめる素晴らしいラインアップでした。
会場内のブースで沢山の仏像を見ていたら、一体だけエラワンの神様が!ペンダントにして身につける用途で2cm程の小さなものですが、思わず「いつもお世話になってます!大切にしますから、家に来ていただけますか?」と言って買って帰りました。
玄関に神様を祀って2週間。無事にSTAMPの来日ビザが発給されました。本当に来日数日前の滑り込みセーフで、STAMPから知らせがあるまでは生きた心地がしませんでした。毎日眠れなくて。当時SNSでSTAMP出演を知った多くのファンの皆さんから沢山の応援を頂いたのに、終始僕達がテンション低めに見えたのは、実はこんなピンチが来日直前まで続いていたからだったのです。
そして2018年6月1日。
STAMPが中部国際空港(セントレア)に到着します。いよいよタイフェス名古屋の始まりです!
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