POLYCATというバンドを初めて知ったのはYouTubeです。カセットテープの写真だったからついクリックしたんですよね。膨大な量の中から、見るかどうかっていうのはサムネイルによる所が大きいですね。2014年の秋、彼等のブレイクのきっかけになった3部作のひとつ「So Long」のMVでした。「80年代」をちょっと頭の中に思い浮かべてからこのMVを見て欲しいんですけど。再生が終わったらまたお会いしましょう。
いかがでしたか?最初に見た時僕、タイポップの懐メロかと思ったんですよ。映像は古いTVドラマか何かの再編集で作られていたし、バンドは一切姿を見せないから。じゃあこの凄まじく80年代な曲はいったい何なんだ、と思ってクレジットを見たら2014年の新曲だ、と。
「え??」と思ってもう1回見ながら笑いっぱなしですよ。「ウンベベ、ウンベベ」のベースライン、フィルターの効いたシンセサイザー、音の全ての要素が完璧に80年代をトレースしてる!スターシップの「愛はとまらない」じゃないよな?何だこのバンド?!わははははは!
でも3回目からはもう涙が止まらなくなっちゃって。この時代に80年代サウンドを完璧に再現してみせる、もの凄い才能の持ち主がタイにいるんだ!っていう事に気が付いちゃって、メロディーも王道のコード進行の上でこんなにも新鮮で力強いし、こりゃとんでもないものを見つけちゃったぞ・・・と思ったらいよいよこの曲がこの映像に対して最強のサウンドトラックになっちゃって、勝手にストーリーが浮かぶんですよ。見てもいないのに。
この後数日間、毎晩繰り返して、そうだなぁ50回は見たと思うんですけど50回泣きましたよ。
FM豊橋でタイポップを紹介するようになった初期の頃から、僕は一貫してPOLYCAT推しで、日本で一番POLYCATをラジオでかけてるのは間違いなく僕だ、って言えますけど、例の如くインタビューを送ってみた際には全く返事が無くてですね、「こりゃやっぱりスーパースターだ。僕のメールなんていちいち相手にしないよなぁ」と思ってました。ところが後にCyndi Seui(Smallroomレーベルの元エグゼクティヴ・プロデューサー)と会った時に
「あ~、彼はフェイスブックは殆ど見てないからね」と。そして2017年2月、Cat Expoの第3回、僕が念願のPOLYCATのステージを最前列で見ていたら彼(作曲/ヴォーカルのNa)が客席まで降りてきたんです。僕はすかさずバッグから渋谷系のコンピレーションCDを取り出して「僕シンディ・スイの友達。これ君に。渋谷系」と彼に渡しました。「ワオ。僕大好き。ありがと。」これがきっかけで親しくなるんですから、人生どこでどうなるか分かりませんね。
これから掲載するインタビューは、2017年11月に北海道新聞の連載コラム「熱風アジア」からの依頼がきっかけで行なったものです。この3ヶ月前にPOLYCATは日本語曲4曲+大ブレイク3部作のエクステンデッド・ヴァージョンという構成のミニアルバム「土曜日のテレビ」を日本でリリースして、日本のシティ・ポップスファンからも注目され始めていました。先方からは僕に「山下達郎がタイポップ界に与えた影響について」「土曜日のテレビは完全に山下達郎サウンドと呼んでいいか?」「僕自身のPOLYCATへの評価」等を聞かれて、僕はそれぞれ
◎「YOUは何しに日本へ?」の大貫妙子YOUの例を挙げるまでもなく、1970-80年代日本のシティ・ポップが世界中のコアな音楽ファンから注目されていて、その象徴的存在が山下達郎である。
タイでは大手GMMやSmallroom、SPICY DISCの制作陣に与えた影響が大きいと思う
◎達郎サウンドはアレンジ的にもっとストイックだから、この「土曜日のテレビ」は僕としてはむしろ角松敏生やオメガトライブ(カルロストシキ期)のサウンドに近いと思う
◎転調のマジカルさとメロディーの美しさが際立っていて、日本のシニア層が聴けば涙腺崩壊。80年代洋楽コンピ盤にこっそり1曲混ぜておいても違和感が無いほど80年代
といった事をお話しました。
しかし、そもそもこの「土曜日のテレビ」というタイトルは、タイでは土曜の朝に日本のアニメが放送されている事から来てるんですが、彼が夢中で見ていたのは「スラムダンク」だそうですから彼の志向する80年代ポップスとの約10年のずれが気になっていたんです。
じゃあ本人に直接訊こう
山麓:土曜日の朝TVでスラムダンクを見てたそうだけど、あのアニメのオープニングとエンディング曲はWANDSやZARD等の90年代のビーイングのアーティストだったよね。そこから何故80年代へと遡っていったの?
Na : あぁ、いい質問だね!2つ理由がある。80年代の楽器、シンセサイザー等を集めてゆく中で(注:新品は高価なので安く手に入る80年代の中古楽器を買っていた)その時代のサウンドに惹かれていった。そんな訳で僕は自分の中に80年代のセンスを沢山持っているから、作る曲も自然とそれを反映したものになるね。もうひとつ、当時はWANDSやZARDが90年代のアーティストだっていう事は知らずにスラムダンクを見ていたから、僕の中では全部「古い日本の音楽」っていう括りだった。大好きな80年代との区別がないまま、90年代の音楽にもインスパイアされていたんだよ。
山麓 : 山下達郎の熱狂的なファンだそうだけど(来日公演で「いつか」をカバーした事もある)、彼のどんな所が好きなの?
Na : 彼はミュージシャンとリスナーとの中間のポジションにいると思うんだ。彼の曲にはプロフェッショナルの音楽家が唸るような凝ったコード進行やブラスセクションのアレンジがあって、そして音作りへの拘りを感じさせながら、同時に普通の音楽ファンの耳にもアピールするよね。僕はどちらの立場にも立っているから、彼の曲はすぐに好きになった。そして彼は音楽家としての質を落とすことなく今日までずっと音楽活動を続けている。彼は「アーティストに必要なものは何か」を常に僕に示してくれている。僕の人生の目標を形にしてる人なんだ。とても尊敬している。
そしてこのインタビューの1週間後。Cat Expo第4回を見るために訪れたバンコク。Cyndi Seuiと一緒にいた市内のカフェに、Na Polycatはリハーサルの合間を縫ってやってきてくれました。
とにかく彼の音楽にはいつもハッピーをもらっていますから、僕は彼に毎日借りがあるようなものです。そのお礼に、と沢山おみやげを持って行ったんですよ。彼が聴きたがってたCDやレコード盤、音楽雑誌や80年代の楽器カタログ(昔楽器屋で集めたものをとってあったので)等を。喜んでもらえてよかったなぁ。
この時に僕がおみやげに渡したSing Like Talkingの「Humanity」が気に入って1日中ヘビロテしたりしている彼ですが、世界的に見ても80年代トリビュート・ポップスとして屈指の完成度を誇るアルバム「80 Kisses」がJ-POPをきっかけに生まれ、ついに日本語歌詞の「土曜日のテレビ」までリリースするに至ったと思うと嬉しいですね。
この後インタビューは「熱風アジア」とFM豊橋「ラビット・アワー」の放送で使用されました。「80 Kisses」もぜひアルバム通して聴いてみてくださいね!
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