山麓園太郎です。サワディーカップ。
僕の音楽関係の活動は完全な趣味で、ギャラを頂くケースは殆どありません。趣味だからこそ全力で取り組める、というか、タモリさんの名言「真面目にやれよ!仕事じゃないんだぞ!」を地で行ってるんですが、当然本業で稼いでこその趣味活動です。
休日にタイポップス探検家やラジオDJやギタリストとして活動するために、僕は25年以上本屋に勤めていたんです。昨年(2019年)の春まで。
本が売れない時代とは言いながら、まぁ定年まではどうにか持つんじゃなかろうか、と思っていましたが僕の勤めた会社にも時代の波が押し寄せてきて「本の事業から撤退」という事になりました。
会社に残るならFCでやってる他業種へ配属。転職先として他の本屋も紹介してもらいました。どちらにも明るい未来があるとは思えませんが、さてどちらを選べばいいものか・・・。
会社への回答期限が迫るそんなある日、うちの社長がこう言い放ったんです。
辞めちゃえば?あたしが養ってあげるから
え?
頭の中に無い選択肢を提示された僕はしばらく固まりました。だってこれは「ヒモになる」という事ですから。超イケメンのジゴロでもないのに。無理無理無理。
盆も正月もなく長年働いてきたでしょ?失業保険もらいながら少し休めば?そうだ、長期の休みなんて今までなかったんだからタイで部屋借りてしばらく住もうよ!
タイで長期!
「タイにしばらく住む」という提案に、突然目の前が開けたような気がしました。これは大変に魅力的なので(笑)僕は翌朝すっかり頭の中が切り替わり、会社に辞表を提出。自らが転職の達人である社長は僕に失業保険の申請の仕方などレクチャーする傍らでもうタイで借りる物件も探しています。
あ、「社長」とは言ってもSTUDIO MUSHROOM IRONは会社登記してませんから社長自身も本業を持ってるんですが、いよいよタイで暮らすスケジュールが決まる段になって
長期休暇取れないからあたしも仕事辞める!
おい!
しかし彼女は「Cat Expo 5に行くために出した有給申請が通らない」という理由で会社を辞めた事もある人ですから僕も今更驚きません。
かくして音楽バカの無職夫婦が、首都バンコクの空港に降り立ちコンドミニアムを借りて暮らし始めたのです。
この時の滞在は本当に収穫が多くて、デパートに入ればAtomやInk Waruntornが無料ライブをやっているし、
旧市街のクラブにSTAMPを見に行ったり
念願のGMM本社ビルに行ったのに
ショップがソンクラン休暇で閉まってたり(涙)
Cyndi SeuiとMay ChucheewaとPYRAの3人とご飯食べたり、
Na PolycatやTELEx TELEXsとご飯食べたり(ご飯ばっかりだなw)
もちろんCDも沢山買ったりして音楽面では毎日何かが起こる、という幸せ無双。BNK48の握手会にも初めて参加してグッズ買ったりして帰国の前日は荷造りが大変な事になりました。
もちろん帰国後も無職である事に変わりありません。でもタイですっかりお気楽な考え方になった僕は「よーし!マジで1年間好きな事しかしない!」と決心しました。すぐ転職に成功した社長が仕事に出かけるのを玄関で見送り、時々ハローワークに出かけて失業保険を受け取り、洗濯と料理を担当する以外は自由時間。怒涛の1年を振り返って箇条書きにするだけでも、
2019
・3/6 アジアのポップスを聴き倒す会第3回・タイ編に観客で参加(東京)※退職決意後の初イベント
・4/2-15 タイで暮らす
・4/21 Plastic Plastic 来日公演(吉祥寺NEPO)
・5/11 タイフェスティバル東京(代々木公園)
・5/12 タイフェスティバル東京と新代田環七フェスティバル(新代田FEVER)のtemp. 来日公演をハシゴ
・5/25 MODS MAY DAY 2019(名古屋)にタイの音楽レーベル主宰者と参加
・5/29 Gym And Swim 来日公演(青山月見ル君想フ)
・6/18 渋谷クロスFM「Tokyo add9」(タイポップス紹介コーナー選曲担当)
・7/11 FM豊橋「ラビット・アワー」出演(アジアン・ポップス特集)
・7/17 TELEx TELEXs 日本盤アルバム発売 ※企画提案
・8/15 TELEx TELEXs 来日公演(青山月見ル君想フ)※企画提案
・9/10 STAMP 来日公演(名古屋TIGHT ROPE)
・9/19 タイ映画「ホームステイ」先行上映&舞台挨拶(新宿武蔵野館)
・9/28 Taiwan Beats(上野恩賜公園)
・10/5 Electronic Music Festival(タイ/バンコク)
・10/14 ONE MUSIC CITYのSafeplanet 来日公演(青山月見ル君想フ)
・11/1 六本木ヒルズで東京国際映画祭(タイ映画「Where We Belong」上映)と「細野観光1969-2019」をハシゴ
・11/22 Cyndi Seuiとベストアルバム発売のためのミーティング(タイ/バンコク)
・11/23-24 Cat Expo 6(タイ/バンコク)
2020
・2/9 アジアのポップスを聴き倒す会第8回・タイ編出演(名古屋ヤンガオ)
・2/14-17 タイに旅行(BNK48の握手会)
・2/24 SHE IS SUMMER 名古屋公演
・3/18 Cyndi Seui ベストアルバム発売(企画・選曲・ライナーノート担当)
平日休日問わず愛知県から東京へタイへ。失業中ですから旅費は節約しようと深夜バスを利用したりもしましたが、こんな趣味ライフは会社勤めと並行しては到底無理です。
これだけ趣味に全振りしていれば同じ趣味の人と知り合うのも当然で、それがまた新しいイベントへと絡み合うように次々繋がっていきました。Cyndi Seui のベスト盤の企画を思いついたのは9月のTaiwan Beats前日で、う~ん・・・写真で説明しよう!(笑)
上の写真のイベントのどれかひとつでも「その日は仕事があって・・・」とか「旅費がかさむから・・・」という理由で行かなかったら、「ベスト・オブ・シンディ・スイ(好評発売中)」は世に出なかったかもしれない、と考えると、職を失った事にも意味はあったと思えます。人生をリセットして飛び込んだ趣味オンリーの世界で、毎回楽しかったそれぞれの出来事が後から1本の線で繋がり「大好きなタイポップスのアルバムを1枚作る」というめちゃ嬉しい夢の実現に。6ヶ月に及んだこのアルバムの制作作業は、まさに無職な僕の心の支えでした。
当時、イベントでお会いする方々から「精力的ですね~」とか「え?愛知県からわざわざ?」なんてよく言われたものですが、実は無職だったからなんですよ。
よく「定年退職したら、ヨーロッパにでも長期旅行に・・・」なんて話を聞きますが、実際65歳の体力で長距離フライトや連日の交通機関の乗り継ぎなんかに耐えられるはずがないんですから、足腰も丈夫で、徹夜だってできる若さが残ってるうちに老後の夢は使っちゃうべき!
・・・という締めを考えていたんです。この記事を書こうと思った今年の2月には。そこにコロナウイルスが襲い掛かり、長期旅行したくても飛行機は飛ばず、「友人と気軽に会う」「ライブの後で打ち上げ」「志村けんがTVに出てる」といった、当たり前だった事が全て当たり前ではなくなりました。
もしも僕に人生の転機が訪れるのがあと1年遅かったら?このコロナ禍の最中、退職する度胸はきっと無かったはずです。収入が途絶えるのを恐れて、必死に現状にしがみつきながら毎日を過ごしていたでしょう。
それでも今こうして無職をネタにするのは、「不幸がやってくるタイミングは選べない」そして「趣味を侮るなかれ」と思うからです。命と趣味さえ失わなければ、不幸の中にも抜け道があると。
無職だった時、僕を支えてくれたのはタイポップスでした。そして「コロナ」というもっと凄い不幸がある今も「ねぇ!新曲聴いてよ」と連絡してくるタイポップスのアーティストや、タイポップスを記事や番組で紹介しませんか?と声をかけてくれる、無職時代に知り合った人たちが、コロナで僕が感じる「不幸」をずいぶん軽くしてくれています。
ですからどうか、趣味だけは手放さないでください。大ピンチに陥って行き詰まった時に、逃げ込める場所、隠れられる場所があるかどうかはとても大事です。その場所はきっとあなたの趣味の世界で、人生に使うパワーを充電できる場所でもあると思うんです。
僕は今、新しい職場で働きながら相変わらず洗濯と料理担当です。収入は少なくなりましたが、長距離通勤と深夜勤務から解放されたおかげで、ついコンビニに寄り道したりストレス発散で衝動買いする事がなくなり支出も大きく減ったので、生活水準が落ちた感じはしません。
そして料理が思いの他楽しくて新しい趣味になりました。
こんな世の中ですが、不幸が増えるなら趣味も増やしてやろうと今は思っています。
社長、あの時「辞めちゃえば?」とあっさり言ってくれてありがとう。
そしてアジポ会に集まった皆さんとの出会いはとてつもなく大きく、後のラジオ企画やTELEx TELEXs青山公演のプロモーション部隊結成、そして翌年の名古屋アジポ会へと発展しました。改めて関わってくれた皆さんに御礼申し上げます。
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