山麓園太郎です。サワディーカップ。
いつもはタイポップスについて書いてる僕ですが、今回は80年代日本のアイドルポップスについてです。あ、でも松田聖子とか、キョンキョンとか一切出てきませんから。
その中でも特にニッチなやつを書きます・・・。
タイポップスとビートルズとアイドル、この3つが僕が小川真一さんに呼ばれてラジオに出る時の持ちネタで、今回の内容は2017年11月9日の放送用(やしの実FM「ラビット・アワー」)に書いた原稿が元です。 この時は特に反響が多くて、全国からアプリで放送が聴かれました。
オールナイターズは僕の青春であり、この特集のためにBNK48のことを調べていたらファンになってしまった、といういきさつもあり、後編で書く予定ですけどオールナイターズと再会する、という奇跡も舞い込んだ特別な放送でした。
好きなものについて書き始めると止まらなくなる、という習性で原稿はホチキスで止めなきゃいけない程の枚数になり、放送時間内に収まるはずもなく、このブログで公開できるのは僕にとって大変スッキリした気分です。早速いきましょう、凄い字数なんで(笑)。
オールナイターズ特集「AKB48へと続くグループアイドルの原点」
「オールナイターズ」とは、1983年4月からフジテレビで始まった深夜番組「オールナイトフジ」の出演者の女子大生の総称です。司会進行にはタレントを起用していたとはいえ、深夜の生放送のバラエティに現役の女子大生をキャスティングし、噛もうが赤面しようがお構い無しに洋楽ヒットチャートやアダルトビデオの新作情報を紹介させたり、レオタードでエアロビクスをさせたり、という内容で開始直後から話題となり「女子大生ブーム」を巻き起こした伝説の深夜番組でした。
出演者には片岡鶴太郎やとんねるずがおり、彼らのブレイクのきっかけにもなりました。放送開始から1年を迎える頃には、出演女子大生は既にアイドル並の人気となっていて、夜明けのフジテレビ周辺(当時はお台場ではなく、新宿区河田町にありました)には出待ちのファンが詰めかけ、帰宅する彼女たちを乗せたタクシーとファンのバイクによるカーチェイスが繰り広げられていました。その中でも特に人気のあった3人がとうとう「おかわりシスターズ」として1984年2月21日にレコードデビュー。僕はこの番組が、アイドルポップスの大きな転換点になったと考えています。
それまでのアイドルは所属プロダクションでレッスンを重ね、デビューにふさわしいと判断されて初めてテレビに登場するいわば「1点物」。衣装もプロの手による特別なものです。一方オールナイターズは出演の際、私服でスタジオに現れ、メイク室で自分でメイクをし、私服のまま出演しました。ファッションに例えればオートクチュールからプレタポルテへの転換がこの時起きたのです。また、キャンディーズやピンク・レディー等「おおよそ2~5人」までだったグループの定義が一気に20人近くに拡大した事も大きな変化でした。
そして番組構成作家として番組に参加していた秋元康がこの番組の特別版「オールナイトフジ女子高生スペシャル」と後の「夕やけニャンニャン」にも関わります。AKB48へと繋がる、彼のグループ型アイドルプロデュースの原点。それが「オールナイトフジ」なのです。番組はメンバーチェンジを繰り返しつつ1991年までの8年間放送されました。
僕は当時東京の音楽学校に在籍していて、アレンジの勉強のために歌謡曲のレコードを買い集めるうちにアイドルに入れ込むようになりました。「オールナイトフジ」の第1回の放送をどこで知ったのかは記憶に残っていませんが、おそらくフジテレビが相当数の新番組告知を事前に行なっていたのでしょう。僕はこの番組のスタートの瞬間に立ち会い、それ以来土曜の夜は必ずTVの前でした。前日の夜にコンビニへ出かけてお酒(サントリーナマ樽2リットル)とスナック菓子をしこたま買い込み、放送開始と同時にプシュー。番組が終わるまでに(終了時間は毎回未定で,明け方に及ぶ事もありました)ビールを空にする、というハイテンションな週末を過ごしたのです。
話をオールナイターズに戻しましょう。
山崎美貴・松尾羽純・深谷智子の3人による「おかわりシスターズ」のデビューシングル「恋をアンコール」は、当時東京でしか放送されていなかった深夜番組発の企画盤にもかかわらず、30万枚を超える大ヒットを記録。以降、次々と他ユニットも誕生し2枚のオリジナルアルバム「チュッとセンセーション」「KIRAっとジェネレーション」、おかわりシスターズとしても2枚組アルバム「LAST」を残しています。そして番組から生まれた楽曲のほぼ全てと、後にソロデビューした山崎美貴のアルバム等も収録したコンピレーション「LASTセレクション」が先月26日(注:放送当時の記述。2017年10月26日)にリリースされたばかりです。今回はこのCDをラビット・アワーが「KATTEにプロモーション」するという、語呂のいい起承転結がついたところで(笑)この80年代J-POPレアリティーズからの音源をご紹介すると共に、グループ型アイドルはどう進化したか?という僕の考察をお話したいと思います。
曲1: おかわりシスターズwith片岡鶴太郎「プッチュンカルメン」(3:55)
デビューシングル「恋をアンコール」のB面。当時の歌謡曲の中でもかなり攻めたコード進行とラテン風味のアレンジが新鮮でした。グループの名付け親でもある片岡鶴太郎との共演です。アダルトビデオ情報のコーナーで赤面している彼女たちに片岡鶴太郎が「カマトトぶりやがって。ベッドでは男に”ねぇ、おかわりちょうだい”とか言ってんだろ!」と毒舌を吐いたのが命名の由来です。
曲2: オールナイターズ「気分はセミヌード」(4:07)
当時の歌謡曲はしばしば洋楽の最新ヒットからモチーフを拝借していました。これはまさにシンディ・ローパーの「ガールズ・ジャスト・ワナ・ハヴ・ファン」ですが、元ネタのタイトルからして番組のムードにピッタリ。1stアルバム「チュッとセンセーション」のオープニングを飾るナンバーでした。
曲3: 松尾羽純/深谷智子/片岡聖子/井上明子「とりあえず恋」(4:40)
これの元ネタはホール&オーツの「セイ・イット・イズント・ソー」。今や女子の皆さんの女磨きは小学生からスタートしますが、当時の女磨きは大学入学からのスタートでした。番組サイドでは企画時に「色っぽさ・エロさ」を楽曲に求めましたが、フォーライフ・レコードのディレクターは彼女たちの「あどけなさ」を見抜き、ピュアなラブソングを発注。特にスタートから2年間の「初代オールナイターズ」の楽曲はピュアネスとイノセントに溢れていて、それが彼女たちをアイドルへと押し上げたように思います。
曲4: 山崎美貴「シーサイド・メモリー」(4:55)
オールナイターズの楽曲制作に関わった作家陣は佐藤準・後藤次利・山川恵津子・秋元康ら豪華な面々。中でも2ndアルバム「KIRAっとジェネレーション」で山崎美貴にソロ曲を提供したのはなんと杏里!彼女自身がセルフカヴァーしていないため、杏里ファンでも知っている人は少ないかも。隠れ名曲です。
曲5: 山崎美貴「借りたままのサリンジャー」(4:20)
山崎美貴は番組卒業後にこの曲でソロ・デビュー。シングル2枚・アルバム1枚を発表した後、女優の道へ進みました。2013年からはオールナイターズで同期だった片岡聖子と「おかえりシスターズ」を結成して歌手活動も再開しています。
曲6: 松尾羽純「聴かせて恋習曲(エチュード)」(4:39)
おかわりシスターズの一員である彼女の歌声は、澄んでよく伸びるハイトーンがとても魅力的です。この曲では、後藤次利が作曲した難しい起伏のあるメロディをしっかり歌いこなしています。作詞は秋元康です。私服のセンスも垢抜けていて、時々かけるメガネもキュート。当時流行のフラッパーからショートヘアへのイメチェンや性格の良さなど、萌えポイントの塊のような女の子で、人気絶頂の1984年8月、よみうりランドEASTに番組ごと出張して開催された「オールナイトフジ スペシャルコンサート」のクライマックスで感極まって「みんな、大好き!」と涙で客席に向けて叫んだ言葉は後に発売されるオールナイターズ写真集のタイトルになり、初代オールナイターズを象徴するメンバーでした。おかわりシスターズは1985年3月26日の新宿厚生年金会館で解散コンサートを行ないましたが、僕と友人(この番組のネット局だったテレビ静岡を、アンテナの向きを調整して愛知県で受信していたツワモノで、解散コンサートのために上京しました)はその場にも立ち会いました。開演前に会場前で松尾羽純の偉業を褒め称えていたら声をかけられ、それがなんと彼女のお母様で、丁寧な御礼の言葉を頂いた。というのは一生の思い出です。
さて、ここからはオールナイターズから始まったグループアイドルがどう進化したのか、僕の見解を書きたいと思います。
「素人がTVに出てもOK」としたこの番組は、それまで憧れの的だったアイドルを一気に「ちょっと気になるクラスメイト」のような親近感のある存在に変えました。それ以外にも「オールナイトフジ」では、裏方であるディレクターやカメラマンをとんねるずがコントのネタにする事で表舞台に引っ張り出す(後にレコードまで出しました)等、徹底して内輪ネタやアマチュアリズムを前面に押し出していました。
「等身大」という言葉がアイドルを評する時に流行ったように、ファンタジーよりもリアリティに勢いがあった時代です。この後の「おニャン子クラブ」では更にメンバーを高校生とする事でその勢いを加速させましたが、続くねずみっ子クラブの失敗で明らかなように、グループの平均年令を下げていく方法論には限界が来ていました。
しかし秋元康はこれらの番組の構成や企画に関わるうちに、AKB48へと繋がるヒントを得ていたのではないでしょうか。それは例えるなら「女子校シミュレーター」。「入れ物にリアリティを付加し、アイドルにファンタジーを取り戻す」というシステムです。
数年前僕がTVのチャンネルを何気なく変えた時に目に飛び込んできたAKBの番組。大勢のメンバー達が各々自由に話したり動き回ったり。スタジオには数台のカメラがありましたが、どのカメラもあまりに目まぐるしい彼女達の動きを追いきれていません。そんな中、大島優子がただ1人、自分がアップで撮られているのに気付くとカメラに向かってウィンクをしてみせたのです。「あぁ、ファンの人は皆これにやられるんだ」と思いました。
女子校の教室に何故かうっかり入り込んでしまった自分。そして自分に気がついてニコッとしてくれる女の子。それ自体は漫画のような、あり得ないシチュエーションですが、シミュレーターですから都合のいい設定はそのまま使い続けていいわけです。とすれば、舞台である学校にリアリティがあるほど、没入感はより高まる事になります。
クラス替え・生徒会役員選挙・転校・交換留学・校則違反による停学退学(!)・・・日本各地にある姉妹校には既に校風らしきものすら漂い始め、乃木坂校・欅坂校に至っては「この学校の制服が可愛いからここ受験する!」という女子がいそうな程、コスチュームも含めた学校感がディテールアップしています。現在は海外にも姉妹校を持つこのシステムの、最新の成果を最後にご紹介しましょう。
曲7: BNK48「365日の紙飛行機」(4:39)
タイ・バンコクで2017年6月にパフォーマンスデビューを果たしたばかりのBNK48。海外校としては先行してインドネシアのJKT48が2011年から活動していますが、BNK48の方が制服や活動スタイルがより日本のコンセプトに近く、日タイ修好イベントへの出演を日本・タイ両国で積極的に行なっている事から、今後日本でも知名度が上がってくるのは間違いないでしょう。デビューシングルはAKB48「会いたかった」のカバー、間もなく2ndシングルとして「恋するフォーチュンクッキー」のリリースが予定されています(注:放送当時の記述)が、今回ご紹介するのはNHK連続テレビ小説の主題歌だったこの曲。歌詞は基本的に日本版を忠実に翻訳しています。
もし事前に説明せずに僕がかけていたら、タイの新人歌手の曲だと皆さん思ったでしょう。このようなバラードでは特に、タイ語独特の響きと声調がメロディーの美しさを更に際立たせています。タイ語は言葉の出だしが柔らかく聴こえるので、メロディの繋がりがとても滑らかです。逆にもし将来TPE(台北)48が台湾に誕生してこの曲を中国語で歌ったら、全く別の印象になるだろうと思います。(注:放送当時の記述。翌2018年2月にTPE48はお披露目されたものの、現地運営会社との契約解消があり、同年8月より「AKB48 Team TP」としてリスタートしています)
日本では特に握手券や複数仕様でのリリースが批判の的になる事の多いAKBグループですが、ロックファンが「あーもう!またかよ勘弁してくれよ」と言いながらキング・クリムゾンやビートルズのリマスターを買い直すのと大差ないよね?音質向上が名目ではあるけど最終的には自分のファンとしての愛情と忠誠を表明するために買うんだよね?と、僕は思っています。相手が女の子だったら尚更です。好きな女の子の気を惹くためにバカやらかしちゃうのが男ってもんでしょう?
「サージェント・ペパーズ」を1人で3000枚買ってもビートルズには何も起きないけど、AKBを3000枚買ったら総選挙で推しメンの順位が大きく変動するんです。
僕はオールナイトフジ以来、アイドルに少なからず救われてきた人間です。普段タイポップスを紹介している僕がこうして日本のアイドルを紹介し、最後にタイのアイドルへ繋げて特集を締めくくれたのはとても意味のある事でした。
AKBグループについて言えば1枚もCDを持っておらず、顔と名前が一致するのもごく一部の子だけ。というポンコツ知識ですがBNK48はiTunesで買いました(笑)。今月の25・26日(注:放送当時の記述。2017年11月)にはバンコクで野外音楽フェス「Cat Expo 4」が開催され、BNK48も出演します。会いに行ってきます!(カイムックちゃん推し)
※今回の特集にあたり、BNK48事情とタイ語に特に詳しいakaguma氏にご協力頂いた他、ファン心理の研究に「浪費図鑑」(小学館)が重要な役割を果たしました。この場を借りて御礼申し上げます。
「ALL NIGHTERS LAST SELECTION」(FLCF-4511) CD4枚+DVD1枚の大ボリュームで、全国のCDショップで発売中です!
と、ここまでが放送用の原稿でした。これを曲もかけながら正味30分ちょっとで喋れるはずないのに、なんでこの原稿書いたかなぁ(笑)。
そしてこの放送を通じて全国のBNK48ファンやオールナイターズファンとご縁ができたことで僕はBNK48にズブズブにハマっただけでなく、オールナイターズと再会を果たすことになるんですが、その話は後編で。
コメント